A子の呪縛①

明け方夢をみた。

銀行で手続きをするために長椅子に腰をかけ順番を待っていた。

ふと顔を上げると入り口からA子が入ってくる様子が見えた。

なぜこんなところにA子が。あの服はマタニティ?

まだお腹が膨らんでないけど、妊婦マークのキーホルダーが見えた。

またか、と思った。

目が合ったので、腰を上げA子へ近づいた。

「久しぶり」

「久しぶり」

ほらね、驚かない。A子はわたしがこの街にいることを知っていたのだ。

「A子、なんでこんなところにいるの?妊娠中なんだ、おめでとう。予定日はいつ?」

「今年引っ越してきてね。予定日は4月だよ」

またか、と思った。

「そうなんだ、里帰りして産むの?」

「んー、来月旦那の異動があるかどうかわかるから、無かったらこっちで産むし、異動だったら里帰りするしかないかなー」

「そっか」

わたしは咄嗟に異動になることを祈った。

A子は、幼き頃から蛇のように静かにわたしと同じところにいてわたしの環境を破壊していくのだ。

わたしの予定日も4月はじめで、今住んでるこの街で産むことに決めてる。

わたしはともかく、頼むから子供に繋がりを作らないでほしい。

わたしの子供の顔も見てほしくない。

どこまで蛇みたいな女なんだこいつ。

夫に言わないと、言わないと、と急いで帰ったら洗面所に夫はいた。

風呂場では2頭の茶色い牛を飼っている。

茶色い牛は、たまに黒い肌の人間に姿を変え、夫とパンを買いに行く。

 

わけのわからないところで目を覚まし、またA子の夢をみてしまった…と気持ちが沈んだ。

 

A子は実在の人物で、幼稚園年長の時に出会った。

毎日悶絶絶叫拒絶を繰り返し保育園を少しも慣れることなく辞め、小学校に上がるまでに少しでも協調性を…という母の願いが込められ1年だけ幼稚園に入れられた。

そこでも一匹オオカミならぬ一匹猿のように一人で幼稚園をやり過ごしていたところ、A子に声をかけられた。大人びてませた女の子だった。それからは一緒に行動することを約束させられた。

しかし、根っからの一人行動好きなので、A子はたびたび「どうして一人でどこかへ行くの。どうして」と少し寂しそうな顔で静かに怒るのだった。

 

小学校に上がり、A子とはクラスも離れ、もともとA子に興味がなかったわたしは、A子の存在さえ忘れていた。

休み時間に一人で遊んでいると、A子が現れた。

「ねんこちゃん、なになにちゃんを呼んできて」

「いいよ」

なになにちゃんを呼びに行くと、なんで?A子知らない、こわい。という。

こわくないよ、呼んでるから行ってあげて。

いやだ。

なになにちゃんは泣いた。

すかさずA子がやってきて、わたしを背後から抱きしめ「どうして泣かすの?泣かせてまでわたしのいうこときいてくれようとしたんだ?うふふ」と優しく囁いた。

まだ6歳でも、何かがおかしい…と気づいた。

それから2〜4年生まで、A子と同じクラスになることはなかったけど、忘れさせないようにするためか、ぽつりぽつりと近寄ってきては、静かにゆっくりと触れて微笑んでくるのだ。

5年生になって、とうとう同じクラスになった。もう一匹猿ではなくなったわたしは、いろんな子と仲良くなっていた。

なのに、間にA子が入ると、仲良くなった子たちは「ねんこちゃんがそんな人だと思わなかった」と言ってわたしから離れ、A子の陰に隠れるのだ。

知らない間にわたしは友達を裏切っていて、友達に責められ詰られ、時に問題になりホームルームで担任にまで責められた。

身に覚えは一つもなかったが、抵抗しても無駄だろうな、という絶望と疲労によって「好きなように解釈してください」と一貫し、友達にも担任にも、ねんこちゃんは変わっちゃったね、と言われた。

そんなことが6年生の卒業まで続き、家庭環境も悪かったわたしは、本格的に癒される場所がなくなった。